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海洋プラから生まれた工芸品 「buøy」

プラスチックメーカーが考える、これからのプラスチックとの付き合い方

廃棄されて海洋ごみとなったプラスチックを材料として、美しい伝統工芸品を作っている「buøy(ブイ)」。今回はtennenの製品の話ではありませんが、国内のアップサイクルブランド「buøy」の考え方にとても共感を覚えたので活動をご紹介します。

お話を伺ったのは、プラスチックメーカー「テクノラボ」の代表で、buøyを指揮する林 光邦さん。とても興味深いお話をお聞きできたので、3回に渡ってたっぷりとインタビューを掲載します。

初回は、私たち消費者が心に留めておきたいプラスチックとの向き合い方についてのお話。

海洋プラごみから製品を作ろうと思ったきっかけ

ーーまずはじめに、御社の事業について教えてください。

テクノラボはプラスチック製品を作る会社。創業してから18年間、プラスチック一筋で、 IoT デバイスや医療機器のような電気製品の外装を作り、デザインから製造まで行なっています。

ーープラスチックメーカーが自ら海洋プラごみを原料に製品を作るというのは、極めて勇気のいることだと思います。

これは私個人の話になってしまうのですが、私は大学時代もプラスチックの研究をしていましたし、社会人になってすぐプラスチックメーカーで働きはじめました。また、実は実家もプラスチックの会社を経営していて、祖父は研究者でもあったんです。

それなので私は人並み以上にプラスチックというものに愛着を持っていましたし、プラスチックというものが社会的に非常に役に立っているという思いで仕事をしてきたつもりだったんです。
しかし、海洋ごみ問題の問題に直面することになった時に、我々が付加価値だと思って世の中に出してきたものも、ごみになっていて、それが結局自然に悪影響を及ぼしたり、海洋生物を殺したりしている事実がありました。

私たちはプラスチック業界の中にいますが、「今までのプラスチック業界のやり方っていうのは、どう考えても持続可能ではない、おかしい方向なんじゃないかな?」というジレンマがあったからこそ、海洋ごみを素材として活かす取り組みをやるようになりました。

ーー確かに、ビーチにいった時にもプラスチックごみが漂着しているのを見かけますね。

そうですよね。それでも比較的首都圏のビーチにはごみは少ないのですが、特に日本海とか南西諸島のビーチに行けば、かなり多くのごみが漂着しているのを目の当たりにします。

というのも、実は日本から出ている海洋プラごみというのは比較的少なく、浜に打ち上げられていたりするのはアジア諸国から流出している場合がほとんど。それらが親潮や黒潮といった海流に乗って、さらに風の影響もありごみが日本海側に漂着することが多いんです。

また、そうしたごみが漂着する地域に行ってみると、長年ごみを拾い続けてらっしゃる人もいて、いたたまれない気持ちにもなります。

毎週ごみを拾って、でもまた次の週にはごみが漂着していて。拾っても拾っても増えることはあっても減ることはなくて。それなのに誰からも感謝されることがなくて、しかも拾ったごみは何になるわけでもなく税金を使って燃やされる。

そんな虚しさと言うかやるせなさを感じている人が数多くいる事実を知って、自分達がやっている産業って一体何をこれまでやってきたのかな? という疑問が、真剣に海洋プラスチックごみと向き合うようになったきっかけですね。

プラスチックごみ問題を自分ごととして考える

ーー他国から流れてくるプラスチックごみなんだから、僕たちは関係ない。そうは思っていないわけですね。

プラスチックごみの問題は多岐に渡りますが、そもそもの話、プラスチックを簡単に捨てられるものにしてしまった罪は大きいと思います。 マスプロダクトは安定して大量生産して、高品質のものを安く提供するもの。特に1990年代からこういう考え方が極端に定着してしまったように感じます。

もちろんペット剤だけは世界的にリサイクルが進んでいるんですけど、他のプラスチックはリサイクルされてない。経済効率と大量生産っていう常識の中で、全て燃やされるってルートになっているのが現状です。

では何故ペットボトルだけリサイクルされているかって言うと、元々の材料がちょっとお高めであったこと。それにペットボトルが出てきた頃は環境問題が注目された時期だったので、大量に流通させるからにはリサイクルができるようにと世界的に合意を作ったからなんです。

ーーこれまで一般的に海洋プラごみが再利用されてこなかった理由は、素材として不均一で難ありとされてきたプラスチックだからですか?

そうだと思います。海洋プラごみは出どころもバラバラで、異なるものが混じって漂着するので、リサイクルしようと考える人は稀。ごみとして燃やすしかないとされてきたそれを再生しようと、研究を重ねた末に生まれた非常識なブランドが「buøy」なんです。

理屈としては、いろんな性質のプラスチックが混じった状態で製品を作るのは全く不可能ではないので、やろうと思った人もいると思います。ただ、何でやられてこなかったかといえば、やはり異材料同士では条件が安定せず、それによって強度や品質が不均一になってしまうからでしょうね。

我々の場合は、生産技術を研究する会社でもあるので、そういった特殊な条件で安定しないものを安定させて作ることが元々得意だったっていうこともありますけど、どちらかと言うと「プラスチック製品は大量生産で高品質なもの」っていう考え方自体が、本当に正しいんでしょうか? っていう着眼点が他と違ったから、一歩踏み出せたのだと思います。

ブランドに込められた想い

ーー改めて、buøyという名前の由来を教えてください。

もともとは「リバース」という名前でクラウドファンディングを始めたのですが、本格的にブランド化するにあたって「buøy」という名前に変更しました。

そこには我々なりにいくつかの意味が込められていますが、名前の由来は海に浮かぶ「ブイ」。ウキとして海の上に浮かべられている、目印として使われているあの「ブイ」です。これは世界中の海で漂流している海洋ゴミのことで、環境がどれだけ汚染されているかの目印という比喩的なものです。

また、ブイは浮き上がるものなので支えるっていう意味もあって、我々の活動がそのごみ拾いをされているボランティア団体さんや地域を支えたいというメッセージでもあります。

さらに、buøyのロゴのoのところにはスラッシュが入っていて浮きのマークにしているのですが、この「ø」を取ると「buy」になる。これは消費行動を見直そうというメッセージです。

日本の人はごみのポイ捨てなんかしないので、海洋ごみが大量に漂着してるって言われてもピンとこないと思うんですよ。「別に自分はポイ捨てしないし、分別して捨ててるし、ごみが海にたくさん流れ出てるって言われても……」っていうのが本音だと思っていて。

しかし、多くの方が100円ショップでプラスチック製品を買ったりとか、簡単に買って簡単に使い捨てたりしています。そうやって買う人がいると、それを作る人がいるのが当然の流れで、この悪循環によって大量のプラスチック製品が世の中に溢れてしまいます。

捨ててないんだけど、いろんなものを買ってしまっているっていう事が、そもそもの原因になってしまっている。だからこれからは、捨て方だけでなく買い方も考えなければいけないと伝えていきたいんです。

ーー日常的に使われるものだからこそ、大切に使えるものにしたいというのはとても共感できます。

決められたやり方できちんとごみを捨てたとしても、どこかで海洋に流出してしまうこともある。だから安いものを使い捨てて、また新しいものを買うっていう消費行動は改めなけれなりません。このような負の連鎖を産む産業を育んでしまわないように、愛着を持って、長く使えて捨てられないものを買っていただきたいというのもブランドに込めた願いです。

buøyの名前は知られてもらいたいような知られてもらいたくないような、大きくなって欲しいような、なくなってほしいよな。すごく曖昧な存在。

変な言い方ですが、私たちは、いつかbuøyのプロダクトがが作れなくなる日が来ることを願っているんです。つまりその時は海洋ごみが無くなったっていうことなので、一番我々にとって幸せな未来。その意味でいつかなくなるために存在しているブランドだといえます。

これがプラスチックメーカーとして、プラスチックを次の世代に引き渡すための、我々なりの答え。そういう立ち位置として、buøyは社会の方に一時的に徒花として認知されていきたいと思っています。

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