前回の記事に引き続き、社会福祉法人「地蔵会」が運営する「空と海」の活動についてのレポートをお届けします。tennen / テンネンのプロダクトを一部担ってくれている「空と海」は、どのようにモノづくりに取り組んでいるのか、そのバックボーンはどんなものなのか。多様性を受け入れて個性を育むという彼らの姿勢は、私たちみんなが見習うべきものかもしれません。
空と海の始まりは、現在旗振り役となっている奥野瑠一さんの父である奥野満さん、大野待子さんが始めたデイサービスの身体障がい者施設。
障がい者の方々が支援学校を卒業した後に働き先がないという問題を知ったのがこの事業を始めたきっかけで、だからこそ生活介護に加えて、持続的な就労支援に力を入れて取り組んでいるのです。
満さんが書道家であったため、最初のころ利用者さんにやってもらった仕事は和紙の漉き作業だったといいます。作られた和紙に満さんが書を書いて、その作品を百貨店などのギャラリーで展示販売することで空と海は社会進出し、次第に紙漉きだけでなく、陶芸や木工や食べ物などに活動の幅を広げていったそうです。
「新しい物事に拡大していったのは利用者さんの適性を探す上での必然でもあって、才能のベクトルが多様だったんです」とは、父の事業の担い手となっている瑠一さん。
受け入れているのは義務教育や支援学校を卒業された方だそうで、利用者さんは10台半ば〜70代までと老若男女。現在はグループホームで暮らす6名と合わせて70名ほどが在籍しています。
一人一人の感覚や才能を封じ込めるのではなく、伸ばして仕事に繋げる。そのユニークで柔軟な方針に共感した保護者の方の中には、家族で近くに引っ越してくるという方もいらっしゃるとか。
緑豊かな環境にある空と海は、利用者ものびのび暮らしているようす。話によると、利用者も職員も、みんなで毎朝1時間広い裏庭(といよりも森)で体を動かし、その後でそれぞれの作業に移るそうです。また、ツリークライミングの講師を呼んで自然遊びのレクチャーがあったり、年に2度は外部活動でキャンプやクロスカントリースキーなども行うなど、積極的に外で遊ぶことを促しているようでした。
「昼休みなど、利用者さんには自由に裏の森で遊んでもらっています。時には自然の中には危険なことなどもありますが、自分で理解して経験から学ぶということも、場合によっては必要だと思っています。様子を見ながら判断をくだす。選択肢を減らすということは可能性を減らすということに繋がりかねませんからね」
空と海が大切にしているのは「身体づくり」と「モノづくり」。自然が近くにある環境で健やかでのびのびと1日を過ごし、モノづくりでもそれぞれの持ち味を発揮しています。
「健常者の人であれば、ある種自分や他人を欺いて感情を隠しながら生活している側面があると思うのですが、障がい者の方は人間の本質的なところに正直なんです。言い換えればその人らしさが全面に出ている。不思議と春はみんな元気になるし、晴れの日はテンションが高めで、逆に雨の日は落ち込み気味だったりと、僕たちより感情に素直ですね。だからこそいつも体を動かしたり自然に触れてもらって、健康的で快適に過ごしてもらえるよう心掛けているんです」
好き嫌い・向き不向きが顕著にわかる分、モノづくりの面で適性を見極めるのはそれほど難しいことではないそうで、だからこそ出来そうな範囲で、とりあえず作業をやってもらうところから始めるといいます。その中で木工であればチェーンソーを使える人、細かくミノで溝を掘るのが得意な人、ペイントするのが好きな人など、得意なことを発見していきます。
「今まで一回もやったことがなかったけど、やってみたらセンスが良かったとか。暗算が非常に早い方がいたり、絵を描くときもモチーフを見ずに描ける方がいたり、皆さんの才能や発想に日々驚かされてます」
同施設の取り組みを語る上で触れて置きたいのが、昨年完成したばかりだという展示・イベントスペースの「ヒュッゲ」。デンマーク語で心地良いという意味の言葉を冠したスペースでは、利用者の方が作った、アート寄りの作品を展示しています。
もともと利用者さんが作ったアートピースを百貨店や全国各地のギャラリーで展示してきた空と海ですが、ヒュッゲが完成したことにより、それらの作品を常設で展示、近隣の方がいつでも見られるような場所を作り上げました。
「利用者さんたちのやりたい様に、楽しくモノづくりをしてもらっていると、その中にアートになる素晴らしいものがあるんですよね。ある人は早く終わらせたくてぐちゃぐちゃして、はい完成って感じにするのですが、それが作品としては良い味になっていることもあり。私たちみたいに奇をてらったり、何かを狙って作品を作ることがないので、発想が凝り固まっていないんですよね」
みんな同じものを見ているようでも、解釈の仕方は人の数だけあるのだろう。思いもつかない発想の作品を目の当たりにして、そんなことを考えさせられます。
「私たちとは見えている世界が違うのかもしれないと、作品を見るたびに思います。ただ、利用者さんたちの作品の打ち出し方はいつもどうすればいいか悩むんですよ。というのも、一時期パラリンアートや、アールブリュットという障がいのある方の芸術作品が注目された時があったのですが、それは『障がい者が作ったからアート的』というニュアンスが感じられて、それが境界を作ってしまっている気がしたんですよ。なので見せ方をどうするかは結構気を使っています」
施設としてはあくまでアート作品は副次的なものと捉えつつ、活動の中で自然と見出されるものとして、基本的に利用者さんたちにはモノづくりに注力をしてもらっているという。
アパレル商品を作っているアトリエでは、主に利用者さんが機織りや刺繍、染色などで生地作りを行い、職員さんがデザインや縫製を担当しています。元となる生地はお店を利用しているお客さんからの頂き物や生地工場のサンプルや端材なども利用しているそうで、基本的にはどの商品も同じにはならない一点モノ。
デザインの多くは刺繍を生かした手仕事を感じられるフォークロアなものが多く、tennen / テンネンが好きな方もきっと気にいるテイストです。
さて、読者の皆さんに空と海のことをご理解いただいた上で、最後に前回のウッドボタンに続く、空と海×tennenの取り組みをご紹介します。
取り組み第二弾となるプロダクトは、飛脚の腹かけにインスピレーションを得た「飛脚エプロン」。その柿渋染めの作業を空と海で担当していただきました。 ※飛脚エプロンは柿渋染め(本体価格21,000円)、反応染め(チャコール・ベージュの2色で、各 本体価格15,000円)をラインナップ。クラウドファンディングのMakuakeで7月27日から展開予定です。
これこそ時間をかけて計画していたtennenとの取り組みで、環境負荷がなく、しかも機能的だという柿渋染めです。柿渋によって染められたコットンは虫除け効果や、天然の抗菌、撥水加工の役割を果たしてくれます。最初はパリパリですが、使っているうちにキャンバス生地のように馴染んでいきます。
「洋服づくりをしている延長で染色ということもしていて、その中でも良くやるようになったのが柿渋染めです。他に草木染めや藍染なども考えられましたが、藍というのは色を出すこと自体が大変で行程も多く、色止めもする必要もあって大変。でも柿渋染めは柿渋液に布を浸けて、太陽に晒して乾かせば、色止めをしなくても勝手に染まってくれます。そしてムラになってもそれが味になる。なので利用者さんたちでも染色作業ができるんです」
柿渋は化学染料のように色味の調整が自在にできるものではありませんが、空と海やtennenのモノづくりの考え方からすればそれで良い。むしろそれが良いのかもしれません。大量生産できて一定の品質であることが良しとされる世の中で、人と違うということは個性であり味なのだと製品を通してお伝えできればとも思っています。
自然、天然のものというのは少しずつ違っている。その事実に改めて気が付いていただければという思いも込めながら、今後のプロジェクトを企画していくつもりです。
今後とも「空と海」との取り組みにご注目ください!
社会福祉法人地蔵会 「空と海」
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