廃棄されて海洋ごみとなったプラスチックを材料として、美しい伝統工芸品を作っている「buøy(ブイ)」。今回はbuøyを指揮する林 光邦さんのインタビューの3回目。
buøyのプロダクト、モノづくりの考え方についてお話いただきました。
ーーポップアップストアを開くなど精力的に活動されていますが、お客さんの反応はどうですか?
店頭に並べていると、やっぱり最初は彩りに目がいって立ちどまってくれる方が多いですね。「なんだかわからないけどキレイ!」って見た目で興味を持ってくださって、次にそれが海洋プラごみだというのを知ってちょっとびっくりされて、そして背景のストーリーを知って応援してくれる方が多いです。
購買層としては20代から30代前半の女性が特に多く、ついで同年代の男性ですね。アップサイクルのプロダクトなどを柔軟に受け入れてくださるのは、若い方の方が多いかな?という印象があります。
ーープラスチックですけど、不揃いで一個一個表情が違うというのもポイントなんでしょうね。
海洋プラごみは種類も色もバラバラで、比重0.8のものも比重1.2のものもごっちゃになります。例えば お皿一枚に必要なプラスチックの量は25g。それを計ってプレス成形していくんですけど、同じ25gでも厚いものや薄いものも出来上がります。
それが我々としては面白いと思ってやってるんですけど、そういったところも含めて面白いと思ってくれるか、それとも品質が安定していないと思ってくれるかっていうのは、本当に人の感性次第なんですけどね。
ーー「大量生産・同一品質」が当たり前の既存のプラスチックとは違う、新しい取り組み。製品も考え方もアート的な気がします。
製造するのも技術というより技能の世界。毎回条件が変わってくるので、この辺かな? っていう勘を頼りに作っていく作業は楽しいし、私たちも工業製品というよりは工芸品だと思っています。
これらの模様は融点の違いによってできるもの。素材によって溶けるものはさーっと流れるように溶けるし、融点が高いものは残る。私たちもプレスをして、蓋を開けてみるまでどんなものが出来るかわからない。これって焼き物に近いのかもしれません。不思議と、年配の方で購入された方にお話を聞くと、陶芸がお好きだったりするんですよね。
ーー消費者や社会に向けて、buøyをどういう風に広げていきたいと考えてますか?
突き詰めて言えば、我々はパイロットブランドだと思っていて、いつかなくなるって言うことを目標にはしています。しかし、そうすぐに無くなるほど海洋ごみは少なくないので、それまでの間は、それぞれの地域で「buøyのようなブランド自分たちでも作ろうぜ」と言ってもらえるようになるため、みんなの手本にならなければと思っています。その点で意識していることはさまざまありますが、価格設定にも気を遣っています。
ブランドで出してるプロダクトはちょっとお高めに設定してるんですけど、これを低価格にしてしまっては、そこでごみを拾って産業にしようと思っている地方の方々の営みが成立しなくなってしまいます。
ごみを拾って製品にするっていうことには、それなりの対価がかかるんですよっていうことを市場に受け入れてもらいたい。人は結構残酷なので、自分が見えないとそこは気になりません。例えば自分が着ている服の背景に新疆ウイグル自治区で過酷な労働をされてる人がいるということなんか、気にしない人は大勢いるんですよ。
しかし目に見える地域で目に見える人たちが、実際にごみを拾って苦労されているのを感じて、それが自分の地元だったり自分に愛着がある地域だったりしたら、流石にみなさん納得して頂けるものだと信じています。
製品を作る人たち人の営みを見える形にして、そしてフェアトレードとなる価格設定をすることは、buøyというブランドが絶対に死守したいことです。
ーー使い捨てが前提のものづくりは、生産者として今後絶対に避けたい道ですね。
それに生産者として使い捨てられないものを作るということも重要視しています。この業界にいて感じてるのは、「プラスチックの製品に愛着がもたれていない」ということです。
もし大切に着た服だったり、大切に使ったペンなどは、その人が過ごした時間がまとわりついてそう簡単に捨てられないものになるはず。それに、それを見て様々な思い出が蘇ってくることもあると思うのですが、ことプラスチック製品に関しては100円ショップで買えるような大量消費の製品という強い認識もあって、そこには自分の時間が一切乗らないことが多いと思います。
安いものを機能だけで選んでしまうような消費行動を強いたのもプラスチック業者ですが、今はそういったプラスチックの使い方はやめようよと言わなければなりません。
ちょっと高くても、思い出と共に長く使おうよ。そんなことをbuøyというブランドを通して伝えていければと思います。
ーー商品ラインナップはどのような思いで企画されているのですか?
「捨てられたプロダクトを使って、捨てられないプロダクトを作る」っていうのが我々の目標。そのためには、どういう物が捨てられないか、どういうものが欲しいと思ってもらえるかっていうことがわからないといけません。ですが、それってどんなものなのかはっきりした答えがないので、安易に品数を増やしていないというのが正直なところです。
私たち自身はプロダクトを作る会社なので、思いついたら型を起こして、1週間2週間後にはすぐに製品化出来るのですが、本当にそれはお客様が欲しいものになるのか? っていうのは疑問が残ります。だからいつも、皆さんがほしいって言ってもらえるものを声を集めていって、手探りで生み出すというプロセスを踏んでいます。
ランプシェードとかソープディッシュ、衣類でいうとボタンとか、様々な要望をいただいてるのですが、それは本当に必要とされているのかというと、僕らとしても判断が非常に多くて。商品展開はできるだけ多く展開した方がブランドとしても良いし、お手本として地域の方が参考にする例になるから望ましいんですけど、なかなか踏み出せないでいることが多いんです。
一番最近商品化された植木鉢も、だいぶ時間をかけて生み出したものです。やっぱり海に投げ出されても残ったプラスチックは当然水に強いし、暮らしを彩る鮮やかな見た目は植物を入れるポットにしたら良いのでは? という提案をお客様から頂いてラインナップに加えました。
ーープラスチック製品も衣料品も同様に供給過多で、同じような悩みを抱えていると感じました。このような業界背景にメーカーとして何ができるか、悩ましいところですよね。
持続可能なものとは何か? と考えた時に、最低限、「作る側も買う側も納得できるもの」でないといけないと思います。作り手のエゴでもなければ、買い手のエゴでも無くて、お互いが幸せだとは言えなければ、持続可能ではありません。
もともとの貨幣経済はお互いのために、自分でやるよりもプロに任せた方が効率もいいし、得意なことを任せることにして、それに対して自分が助かった分の対価を払うという仕組みでした。これはこれで、あるべき持続可能な循環の姿だったのだと思います。
ですが今では、取引において自分だけが得をするために相手が損しても良いという考えが蔓延ってしまい、消費者は消費者でわがままを言うし、企業は企業でいかに効率的に、うまくやるかみたいな所に両者が行き過ぎてしまって、お互いの不信感が高まってしまっている節もあります。
それでそのシステムから抜け出そうと、暗号資産や不動産やら投資やら極端なお金の使い方が生まれていますが、我々は投資家ではなくメーカーですし、効率よくお金を投資してパッと逃げるっていうのをやるのが、自分たちの生きる道として正しいとは思えません。
そうなってくると、やはりみんなが満足がいく活動をフェアに交換して、納得が行く場所を探すっていうことが次の世代に引き渡すための社会の仕組みなんではないかなと思っていて。我々はそれをプラスチックでやりたいなと思っています。
ーー聞いただけでも、1年、2年というスパンで物事を見てるというよりかは、持続可能性という目線から、もう何十年というスパンで今のプロジェクトを見てる印象を受けます。
私も50を超えて自分の引退が見えてきたのですが、そうすると残った時間であとひと仕事、何が残せるだろうかと考えるようになりました。私はプラスチック業界しか知らないので、その中で精一杯技術を引き継いで次の世代に受け渡さなければと思っているのですが、じゃあ次の世代に受け渡すものってなんだろうと。
それで、少なくとも大量生産や高効率というところではないはずだと感じたんです。「持続可能な社会の仕組みの中に当てはまって、みんなから喜ばれるプラスチック産業」。これが私達が後世に引き継ぐべき、すごく重要なキーワードなのだと思います。
◇インタビューを終えて◇
「buøy」の活動を通してプラスチックのあり方を再提案しているという、テクノラボの林 光邦さん。お話を伺って、大いに共感できることや、私たちが考えを改めなければいけないと思ったこと、tennenのものづくりにも生かしていけるヒント、気づきを得ることができました。
プラスチック業界に起こっている問題は、私たちが従事しているファッション業界の抱えている問題とも、とても似ていると思います。誰にも着られず廃棄されてしまう洋服が年間でどれだけ出ているか。土に還らない化学繊維の服がどれだけ作られているのか。これは未来の世代に向けて、絶対に改善しなければいけない、目を背けてはいけない人類の課題でもあります。
私たちtennenは、持続可能なアパレル産業のモデルケースになれるよう、自然分解100%を目指して天然素材を使った服を作っています。その活動の中で、コットン繊維も再利用できたらより環境負荷が軽減されるのではないかと、着古したコットン衣料を繊維として再利用する「BOROプロジェクト」も進めているところです。
「アップサイクル製品」というものが、ただ耳障りが良いだけのものではなく、真に使っていて気持ち良い、大切にしたいと思われるにはどうすれば良いのか?
プロダクトを生み出すというメーカーの宿命の中、環境負荷の低い製品を提案することで世の中のベーシックを変えていけるよう、私たちは向き合い続けなければいけません。
(infomation)
buøy
www.techno-labo.com/rebirth/