MAGAZINE

海洋プラから生まれた工芸品 「buøy」

地域と連携してごみをアップサイクルする難しさ

廃棄されて海洋ごみとなったプラスチックを材料として、美しい伝統工芸品を作っている「buøy(ブイ)」。前回に引き続きbuøyを指揮する林 光邦さんのインタビューを掲載します。

第二回目は、海洋プラごみを集める際の苦労や、製品を作り上げるまでの道のりについてです。

広がっていく、アップサイクルの輪

ーー実際buøyの製品を作る時には、どのようにして海洋プラごみを集めていますか?

最初は海岸に出向いて自分たちで拾っていましたが、今は各地の方のご協力をいただいています。我々のプロダクトはほぼ100%海洋ごみから作られているので、製品を作る量だけ海洋ごみを収集してこなくてはならないんです。大きいお皿だと1枚で100グラム必要なので、10枚で1kg必要。ですが、太平洋側では海流や風向きよって沖に漂流物が流されるため、大量のごみを関東で拾うのは大変な作業でした。

はじめはそれでもなんとか製品を作り、クラウドファンディングを行って多くの方に活動を知っていただいた結果、海洋ごみが漂着している地域のかたや団体の方が多くご支援してくださいました。また、嬉しいことにビーチクリーンをされている方から、自分達が拾ったごみも使って欲いというご依頼をいただくようになり、今では各地のボランティア団体さんからごみを買い取って製品の材料にしています。

ーーブランドとしては生産量が徐々に増えていっているんですね。

これまでは10kg、100kg という単位でごみを使っているのが現状ですが、できればトン単位でいろんな地域と関わっていきたいと思っています。ただ、まだそこまで行くのにはちょっと時期尚早かなとも思いつつ。ご協力いただける地域もどんどん増えているので、地道に進めるつもりです。

ーービーチクリーンで集めたプラスチックの中にも、異なる色があるかと思いますが、それぞれ色ごとに分別してもらっているんですか?

最初はごみはそのまま受け入れて、自分たちでこう色分けして砕いて使っていたんですが、今はごみは色分けして砕いてもらうところまでは現地でやってもらって、それを我々が購入するっていう形をとってます。その理由はやっぱり法規制の関係なんですよ。

日本には廃棄物処理法という法律があり、これによってごみをある地域からある地域に送るには、お互いの市町村で許認可を受けて配送しなければいけないんです。それもマニフェストと呼ばれる書類を発行して、最終的にそのごみがどこの処分場に向かって処理をされた側で記載しないといけないっていう……。

これはもともとごみの不法投棄を防止するために作られた法律なのですが、当時はアップサイクルするっていうことは考えられていなかったので、新しく製品を作るという理由であっても廃棄物処理法の対象になってしまう。これが我々が次に直面した問題でした。

廃棄物処理法の範囲外でプラごみの受け渡しをするには、ごみではない体裁を保っていなければならない。各地方でごみをある程度の形にしてもらわないとごみが送れないという拒絶を受けてしまったこともあり、それで今の形になりました。当然ながら色の分別、処理をするのに人件費がかかるので、団体の方からそれらを買い取るときは新品のプラスチックの原料と同じ値段をお支払いさせていただいています。

この金額は、ごみを粉砕したり洗ったりしても十分ペイできる額で、もしボランティア団体の方たちだけでそこまで手が回らなければ、例えば地域の福祉事業所などに持っていって、工賃を払って色分けしてもらったりすることもご提案しています。そうすればより地域活性に繋がりますしね。

海の厄介者をポジティブな方向で地域に還元

ーー海洋プラごみが多い地域でこの活動が盛んになれば、環境を意識する人も増えるし、仕事も生まれて良いことばかりですね。

地域創成というのも、buøyの掲げる大きな目標。まずは地域の方々に親しんでもらえるよう、製品を販売する際にごみの産地を明記して、希望があれば優先的にその地域に製品を卸すようにしています。

そうすることにより、自分たちが拾ったごみが綺麗なプロダクトになって、誰かの手に渡ることがより可視化されます。これはごみを拾われてる方にとってみると、自分たちがやってることが無駄じゃないという誇りに繋がると思うんです。

そしてこういう製品にするためのニーズがあるということで、環境のためだけでなく人に向けてごみ拾いができるし、それは当然その運営資金に当てられるものにもなるので、活動もよりサステナブルにすることができるはずです。

我々自身はプラスチックを形にすることしかできないのですが、実際にごみを拾われている人に注目が集まれば協力者も増えて、サステナブルな関係が生まれ、プラスチックが犯している罪が少しは軽くなるんじゃないか。私たちはそんな願いをbuøyというプロジェクトにかけているんです。

結局、我々は小さい会社なので、海洋ごみに対して出来る事って本当に限られています。だからこの取り組みは皆さんの協力がない限り大きくなっていきません。

最終的にはその各地域に同じようなブランドが生まれて 、自分達が拾ったごみで自分たちのプロダクトを作って、それを地域に思い入れがある人達が購入して……という風になってほしいんです。それはいずれ私たちのライバルになるかもしれませんが、それよりもその土地で循環する仕組みが生まれて欲しいなぁと、本気で思っているんですよ。

ーー理想を理想で終わらせず、周りを巻き込んで取り組まれている姿勢にとても感銘を受けます。

ただ、私たちもまだまだやることは沢山あるんです。なにせごみ取り扱いに関する法律っていうのはかなりデリケートな問題なので。

我々は環境省や都道府県、顧問弁護士などと打ち合わせをして、海洋ごみを利用して弊社が製品を作ることに関して全く法律的に問題がないような道筋を作っているのですが、市町村の担当者の方にご理解いただけないこともあります。「ごみは各市町村が管理するもので、個人や法人がごみを出すのはまかりならん」と考えてらっしゃる方もいらっしゃって、ビーチクリーンの団体の方が板挟みになってしまうこともありました。

「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」という法律が2022年4月から施行されるので、プラスチックはごみでなく資源だという見方が強まるとは思うのですが、なかなかの市町村まではその考え方が届いていない現状があります。

ーー事業として海洋プラごみの調達ルートを整備するにも、一筋縄ではいかないんですね

……。

自治体以上にもっと根深いのが、利権がらみですね。例えばごみ処理場だと、日本中で新規参入が全くない状態なんですね。我々は海洋ごみを回収してアップサイクルしたいだけなのですが、処理業者の方が自分たちのテリトリーや既得権益が犯されるのではないかと強い反発を受けてしまうことも珍しくありません。

また、ごみを集めることに関しては、場所によっては漁協さんも絡んでくる話でもあります。海洋ごみが漂着する地域では国から助成金が出るのですが、その助成金を元に市が地元の漁協の方にごみの回収を委託することもあるんです。漁の閑散期にその船を使ってごみを拾ってくれたら、そのごみを買い取るというのがよくあるパターンですね。

これが原因で漁協の方とごみ拾いのボランティア団体が衝突するということも起き始めていて。我々がやっていること自体が間違ってない自信はあるのですが、そこに関わる方々はたくさんいらっしゃるので、仕組みを社会に受け入れてもらうのには丁寧に少しずつやっていかないといけません。

本来ならその地域地域に出向いて丁寧に説明したいのですが、感染症拡大の影響で地方の方は首都圏からの訪問し辛い状況で、思うように動けていないところが課題としてあります。

地域産業の振興にもなりますし、誰にとっても利益がある話だと信じているのですが……。とりあえずは、少しずつモデルケースを作ってご理解いただけるように進めているところです。

第三回はこちら