みんながハッピーになれる、人にも環境にも優しい服づくりを目指しているtennen。近年では特に環境負荷の少ないヘンプを素材にした「HEMP」シリーズや、着古したコットン衣料を原料にしたサスティナブルな素材「BORO」シリーズに注力をしていて、業界内や省庁、学校関係者の方々からお問い合わせをいただくことが増えてきました。
ちょっとした自慢なのですが、実は2022年度の高校の教科書でtennenのモノづくりが取り上げられることになりました! 多くの若い人たちに未来の服づくりのあり方を紹介できることを誇らしく思います。
さて、今回のマガジンは、環境問題を自分ごとと考え、身近にあるものをリサイクルできないかと考えた女子高校生のお話。純粋な好奇心と、なんとかしたいという熱意に、私たちも胸を突かれました。
昨年8月、tennenの服づくりについて話を聞きたいと、ある女子高生から連絡をもらいました。彼女は横浜市にある英理女子学院高等学校に通う鈴木梨花さん。授業の課題というわけでもなく、部活動というわけでもなく、ただ問題意識に突き動かされるようにして、自主的にバレエのトゥシューズのリサイクルができないか研究をしているとのことでした。
彼女は自ら実験を行なったり、国内外のリサイクル事業を行なっているメーカーやトゥシューズメーカー、プロやアマチュアのバレエダンサーにコンタクトをとり、情報を収集。使い古したコットンの再利用という点でtennenのBOROに興味をもっていただき、声をかけてくれました。
リモートで行われた鈴木さんによるインタビューでは、tennenの目指す環境に負荷の少ないモノづくりの説明から入り、BOROファブリックについて、具体的なリサイクルのプロセスの紹介などをお話をさせていただきました。
彼女はその後、収集したデータをもとにプレゼンテーションを制作して、新聞社主催のSDGsのアイデアコンテストに応募したそうです。今回はその発表をみせていただくと共に、今度は私たちが彼女について取材させていただくことに。校長先生や担当の先生にも立ち会っていただきながら話を聞かせていただきました。
英理女子学院は、課外授業での企業とのコラボレーションや、社会で活躍する人材の教員採用など、学校と社会との接点を増やすという、ユニークな教育方針を取っている私立高校。自立し、これからの社会で活躍できるようにと工夫を凝らした授業が特徴の女子校です。
学科は「i グローバル部」と「キャリア部」の大きく二つに分かれていて、鈴木さんはキャリア部に在籍し、その中で進学教養というコースを専攻。彼女たちが受けているカリキュラムの中には、「総合的な探究」の一貫として「考える科」という同校オリジナル科目の授業があるそうです。
これは、物事の考え方を学ぶことで世の中になかった物事を創り出す創造力や、既にある物事を組み合わせて1+1を3以上に変える力を身につける授業。自分で課題を見つけて、自ら考えることで解決をする力を養う目的があるといいます。
「私たちキャリア部は詳しくは学ばないのですが、iグローバル部に所属する友人は授業でSDGsについて勉強することが多く、その子たちと話していて私にも何かできることはないのかな? と思ったのが、環境問題に目を向けるようになったきっかけです。授業で学んだ“考え方”を実践に移して、どんなことができるのかというのは自分の課題でしたが、環境問題はとても良いテーマのように感じたんです」
鈴木さんは一年生の時から何かに取り組もうという意思を持ち続けていましたが、自分にいったい何が出来るのだろうとずっと悩んでいたそうです。バレエのトゥシューズをテーマに自ら行動起こそうと思ったのは、それまでに追求したい課題が見つからず半ば諦めようと思っていた時だったといいます。
「二年生になったある時、英語の授業の題材でファストファッションとエシカルファッションを題材にした英文がありました。それは英文を読んで単語や文法を習う題材の一つでしかなかったのですが、その時に先生が衣料品産業の環境汚染についての動画を観せてくださって、それが強く印象に残ったんです。その時初めて、私たちの着ている洋服の行き先や環境汚染の実情を知り、捨てられる服を見ているうちにトゥシューズの事を思い出したんです」
中学時代は週6日レッスンを受けるほど熱心にバレエに打ち込んでいた彼女自身も、月に一足ペースでトゥシューズを買い換えていたといいます。競技としてはニッチな部類に入るバレエですが、全国、全世界規模でみたら競技人口も多く、日々大量のトゥシューズが捨てられているということに、彼女はテーマを見出しました。
「トゥシューズは普通の靴と違って、爪先立ちが出来るように足指の先端と靴底を硬く作られているのが特徴です。私たちは履き潰すと表現するのですが、履いて踊っているうちに先端が柔らかくなってきたり、擦り切れてしまったりして、ダメになってしまうんです。特につま先が柔らかくなった状態では危ないので、必ず変えなくてはいけません」
シューズの値段も関しても決して安いものではなく、学生ダンサーが使っているものでも一足4000円〜1万円。プロが使うようなものだと何万円もするものあります。ですが、どれも毎日のように使っていれば一ヶ月程度で寿命がやってきてしまい、場合によっては1日で履きつぶしてしまうこともあるほど短命なのだといいます。
鈴木さんがバレエ団連盟やバレエ教室を通じてダンサーの皆さん総勢107名に行なったアンケートによれば、平均して年間11足ものシューズを買い換えているとのこと。しかし、そのリサイクル率はゼロ。唯一、人によっては取り外し出来るリボンを再利用している程度だそうです。
データを見つめて、改めてその現状を把握した彼女は、日々捨てられてしまう靴をどうにか活用する方法はないのか、自分で行動を始めました。
まず始めに行ったのは、トゥシューズの解体。今の時代なんでも検索窓にワードを入れて解決しようとしてしまいがちですが、自分でどんな構造になっているのか調べることは自分の手を使ってみたといいます。
「リサイクルの可能性を探るにあたって、どこにどんな材料が使われているのかを知ろうと思って履きつぶしたシューズを解体しました。この経験は構造を理解することに繋がったのはもちろん、素材それぞれを取り分けるのには両足で1時間半も時間がかかり、解体の手間も身をもって知ることになりました。また、作りが細かいぶん素材が様々あり、リサイクルへのハードルも感じました」
メーカーによって素材は異なるものの、主にトゥシューズにはトゥ部分にリネンなどの繊維を合成樹脂で固めたもの、レザーのソール、シャンクと呼ばれる靴底、アッパーの裏地の帆布、表地のサテン生地などがあるそうです。鈴木さんは解体したトゥシューズをもとに、化学と考える課の授業担当でもある西村先生の協力を得ながら、自ら実験をして再生繊維を作る実験もしました。
「繊維リサイクルというところでいうと、化学繊維のリサイクルは繊維を溶かすなどして行われていますが、とりあえず出来ることからでもやってみようと帆布の部分のリサイクルをしてみました。綿からは再生繊維であるキュプラができるということを知って、じゃあその過程を実際に試してみようと先生に手伝っていただいたのですが、それもとても大変で。実際に私が使い終わったシューズから生地を取り出し、一応糸を作ることはできたのですが、たくさんの薬品を使う割に生産量が少なく、環境保全の観点では逆効果だと感じました。研究の成果としてリサイクルの出口を見つけることができればと思っていたのですが……」
そんな課題に直面して、使い古したコットン繊維から服を生み出しているtennenのBOROを見つけたのだといいます。
「バレエ人口がたくさんいる中で、どうやって集めて、どこの施設でリサイクルをするのか。たとえその道筋を整えたところで、化学物質をたくさん使ってリサイクルすることは本末転倒。新しい問題が出てきてしまうのではないかなと考えを改めました。それでは燃料にする『サーマルリサイクル』をするという手もありますが、それも何か違う気がして……。そんな時にコットンリサイクルで調べていて、tennenというブランドがあることを知ったんです」
現状、洋服のリサイクルといえば多くの場合、化学繊維の「ケミカルリサイクル」のことをさします。これは簡単に説明すると、一度繊維を原料の状態まで溶かして、新しい繊維にするということです。
しかし、tennenが取り組んでいる「BORO」は、捨てられたコットン衣料を原料として新しいコットン衣料を生み出すというプロジェクト。私たちのBOROはコットン衣料を薬剤を使って繊維にするのではなく、細かく破砕して再び繊維にして紡ぐという「マテリアルリサイクル」をしているのです。
しかし、綿100%の服にもポリエステルの縫い糸が使われていて、再生した繊維がどうしても綿100%にならず、大変な苦労を強いられました。また、リサイクルコットン素材ではどうしても繊維長が短くなってしまい、Tシャツレベルの細い糸にするのが大変で、紡績屋さんには相当頑張っていただきました。
鈴木さんが直面した問題は、私たちも一度通った道でもあります。トゥシューズ同様に、洋服もシンプルなようでいて、実は複雑な作りをしています。生地は場所によって違うものが使われていたり、ボタンやファスナー、ゴム、芯地、縫い糸などの付属があったりします。それからどうすればいいか改善を重ねてできて、できる限り私たちも天然素材で頑張っているところですが、それを16歳の高校生も考えているというのは勇気付けられます。
コットンのリサイクルについては再利用のヒントを見つけることができた鈴木さんでしたが、そのほかにもリサイクルしなければならない素材は山積み。それでもめげず、国内外の関係各所にコンタクトをとったそうです。
「レザーのリサイクルについて調べたところ、世界的にリサイクルレザーを生産できる工場は限られていて、日本でリサイクルレザー製品を作っているメーカーも、ドイツから仕入れているという事を聞きました。そのドイツの会社に送ったアンケートはまだ返ってきてませんが、日本のメーカーさんとお話していた時に、『リサイクルレザーを作る設備を作るには莫大なお金がかかるし、その投資に対して売り上げが見込めないから日本では作られていない。リサイクルをするにもビジネスとして成り立たなければいけないんです』。というお話をお聞きして、また大きな問題に直面した気分になりました。私はまだ高校生で、リサイクルに関して経済的な負担の大きさを考えたことはなかったのですが、現実はそうなんだなと……」
今の時代、企業としては営利につながることを目論んでSDGsを取り組むところが多い中、ピュアな心で世界をよくしていこうと考えている鈴木さん。このように理想と現実で胸が苦しくなった瞬間もあったと語ります。
サスティナブルなモノづくりというのも、利益を産むことで続けられるというのもリアルなところ。tennenのモノづくりも、素材を生産してくれる人たち、生地を作ってくれる人たち、縫ってくれる人たちの協力で成り立っています。結局その人たちも消費者もWIN-WINになることをやらなければなりません。みんなが幸せになるには、出口戦略というのも確かに必要になってきます。
リサイクル製品は廃棄されたものから作るので、一般の方からすると安くて然るべきだ思われています。しかし、実際は再生するにはコストがかかってしまう。だからそんな問題をやり遂げることには時代の後押しも必要です。幸いにも今は世界規模で環境意識が高まり、全体が同じ方向を向いています。
なので、鈴木さんには私たちのような大人をうまく利用して、希望を捨てずに純粋な心で問題に向き合って行って欲しいですね。
鈴木さんの行動力に驚いているのは西村先生も同様で、「フットワークの軽さというか、彼女の目指すところに突き進むパワーにはすごく感心させられました。物怖じせずに企業の担当者に突っ込んでいくその姿勢は、鈴木さんの誇るべき個性だと感じています」。と称賛されていました。
研究を進めるうちに新聞社主催のSDGsのアイディアコンペへ参加することを決め、一度問題提議のプレゼンテーションとしてまとめ上げた鈴木さん。
「実際にどのような仕組みを作ってトゥシューズを回収し、リサイクルするかというのは今後の課題ですが、まずは問題を知ってもらう事と意識改革につながる提案をすることが大切だと考えて応募しました」
コンペの応募は終わりましたが、今後も引き続き問題解決に取り組んで、具体的な施策が形になるようにアップデートし、改めてクラスメートの前でも発表する場を設けたいと思っているそうです。
正解のない問いに直面しても、最適な解を導き出せる「考えるスキル」を身につける「考える科」の授業。自分たちの力だけではできないなら、どんな人を協力者にすればいいか? など、学生のうちから人生で必要な課題解決の方法を導き出せるように日々勉強しているだけあり、今後の活動も楽しみです。
今回の研究をきっかけに改めて日々の行動や消費について考え直すようになり、そしてバレエに打ち込むモチベーションにも繋がったという鈴木さん。最後に彼女が目指す将来について聞きました。
「トゥシューズのことについて考えるようになった影響も大きいと思いますが、何かモノを作ったり、改善するような仕事につきたいなとはぼんやり考えています。高校生になって化学や物理が面白いと思ってきたので、大学進学でもそういうのが学べる工学科などで進路を探してみようと思っています。『もっと自分に知識があれば変えられるのかなぁ』と思うことが多いので、将来は技術開発や問題解決をすることによって世の中をより良い方向に導けるような仕事がしたいです」
女子高生でも環境問題を自分達の抱える問題だと考えて発信している。問題を問題だと思って声をあげている。その姿勢に見習うところは沢山あります。
リサイクルは、より良い暮らしを求める上で欠かせない考え方ですが、それだけに一筋縄ではいかない茨の道。いろんな壁にぶつかる事もあるかもしれませんが、一緒により良い世界を作っていきましょう!