2019年3月末で、tennen/テンネンは1周年を迎えます。あらためて、これから先の服づくりを見つめて、ブランドのディレクションとデザインを進める小栗が、その想いをみなさまにお伝えしたい!
と手を挙げました。
後編では、tennen/テンネンの服づくりのクリエイティビティについて語ってもらいました。引き続き、アツいです!
―いまtennen/テンネンが掲げるキーワードって?
大げさに言えば、人の幸せと自然環境の幸せっていうのが最終的な到達点。
そうあるにはオーガニックじゃなくちゃいけないし、リサイクルで余剰エネルギーを利用して、環境にインパクトを与えないことを模索したり、日本でものづくりすることによって、エネルギーコストも削減すると同時に国内でものづくりができる環境っていうのをもう一度見直さなくちゃいけない。あとは、生分解性100%のものづくり。プラスティックフリーも含めて、自然に還らないものを多くつくり出してしまったので、それを昔に戻るんじゃなくて、新しい技術とか考え方で、これからの時代のものづくりを考えるっていうテーマで、そういう洋服をつくっていこうっていうのが目指すところ。
そんな前提があるなかで、ものづくりの観点から僕らがやり遂げなくちゃいけないのは、合繊が発明された以前の、昔の洋服の良さや天然繊維の良さを現代に生かしたときに、「どういうクリエイティブなことができるのか」を見つけていくことと、それに向かってチャレンジしていくことが大事なんだと思う。
デザインや技術は便利だから進化していったと思うので、そのまま昔に戻る必要はなくて。天然繊維100%で便利な服って、どうやったら追求できるのか? tennen/テンネンのものづくりは、そういうものづくりかな、と
合繊は、例えばアウトドアのシーンとかでは絶対に必要なわけだし、なくならない世界だと思う。合繊を否定するわけじゃなくて、ただ「そうじゃない世界もあるよね」っていうのを世の中に知ってもらいたいなと。
―天然繊維のすばらしさを伝えるブランド?「自然を纏おう!」的な?
本当にそうだね。だって、あのウールの複雑な繊維形態って、合繊では100%再現できないんだもん。それくらい複雑。そりゃそうだよね、生物は進化してきたんだもんね。地球の気候に合わせてさ、何億年も前から。合繊は高々数十年の歴史だけど。
合繊のあり方、例えばナイロンとかができたのは、もとはコットン100%が素材的に弱いからとか、雨に濡れないようにとかなんだけど。でも、コットンのほうが肌触りがいいから、それに似せるようにケバ立たせたり、ナチュラル感を出したり、っていう研究に入っていったのだとか。
―そう考えるとフローリングとかも木に似せてあるとか?
それと一緒だね。結局、木がいいと思ってるんだけど、腐るし、曲がるし、手入れも必要だし。でも、木が本来持つ人のココロに訴えかけてくるような温かみや、やすらぎ、癒し、香りは持たせられない……。
―AIがいまどんどん人間に近づいて来てるじゃないですか? でも人間って、どうしても効率的じゃないものを選んだりとか、AIからするとバグみたいな選択をするらしいんですよ。そこが人間とAIの違いらしいんですけど。効率を考えたら「プラスチック製の木の模様が入った板のほうがいいじゃん!」ってなるんだけど、人間はそうじゃなくて「なんだか木のほうがいいんだよね」っていう。人間は、効率的じゃないものを敢えて選ぶっていう。「行きは右回りで来たから、帰りは左回りで行こう」とか、そういう効率とは無縁なところが人間にはあるらしく。現状のAIからすると、そこが読みきれないという……。
でも、そういうのが人間らしさのような気がする。効率だけを求めた合成繊維ではなく、感覚的な天然繊維。ウールとか、コットンって、言ってみれば奇跡みたいなもんじゃない? もとを正せば、神様がつくり上げたような。予期せぬ進化から生まれたようなもんじゃんか。そういうものを身に纏うっていうのは、人間にとって自然なことだし。「AIが導き出した最短効率はこれだから」っていうのではない大事な部分。人間らしい部分。そういうのと天然繊維って、なんらかの親和性があるのかなって。
―圧倒的に心地いいのが天然繊維ですよね。“気分の自由”があるというか。
例えば、実質的に機能だけって考えたら、数値で表せるからね。
理論派は誰しもが、「こういう数字が出てるんだから、こっちのほうが着心地がいいですよ」って言うかもね。でも、実際着てみてココロで感じるものって、もしかしたらコットンのほうが全然心地が良いと感じたりするかもしれない。数字には見えない心地良さだったりするわけだよ。それが、人間が単に理屈だけでは語れない複雑さであり、天然繊維にもそういう力があるんじゃないかなって思ってる。
―どんな服が理想形?
長く着てもらうことが正しいとすると、着心地が良くなくちゃいけない。もちろん丈夫じゃなくちゃいけない。この着心地と丈夫さって、実は相反しているもので、そのバランスの追求がものすごくむずかしくて。
で、それを追求していくと、最後には原料にたどり着く。料理と一緒で、原料は嘘をつかない。もともとの野菜が持っている味がいいほど、手を加える必要がなくなってくる。それは洋服も一緒で。「余計な味付けはいらねーぜ」って。
シンプルな服であればあるほど、やっぱりそういう要素がものすごく重要になってくる。なぜなら、長く着るためにはシンプルでなくちゃいけなくて、デザイン性が高いほど飽きがくるし、トレンドにも左右されちゃうから。やっぱりベーシックなものほど原料の大事さとか、ものづくりの大事さっていうのがあって、ごまかしが効かなくなるよね。
着心地の良さと、生分解性100%と、耐久性は、永遠のテーマかな。このバランスが半端なくむずかしい。それを新しい方法や技術によって、より完成度の高いところに持っていくっていうのが、僕らが目指すべき次の時代のものづくりだと思ってるよ。
―今年チャレンジしていきたいなって思うことは?
いま取り組んでいることでいちばん大きな事柄は、リサイクル。捨てられた繊維製品からつくられたコットン100%に限りなく近いワタで、もう一度糸を紡いで洋服をつくるっていうもの。でも、難易度が高くて。
最近も試作としてでき上がった糸があるんだけど、まだ全然強度がなくてね。最終的にはホールガーメントでつくるんだけど、そのメーカーさんからは、「糸が切れちゃう。これじゃ、ちょっとつくれないかもね」と。もっと強度がある糸をつくらなくちゃいけなくて、いまちょうどテストをしてるところ。まあ、だれもつくったことがない糸なんで、そうそう簡単にできると思ってないけど。それを最終的にtennen/テンネンの製品でリサイクル、循環させていくっていう風にしていくと、コットン100%のものは循環できるようになる。
(卓上のTeeを指して)例えばこれは、縫い糸も含めてコットン100%でできている、つまり生分解性100%のTシャツ。コットン糸じゃなくて、普通のスパン糸でやれば、楽だし、手に入りやすいし。かといって、普通に流通している綿糸でやれば弱いし、切れるし。
「じゃあ、どうするの? 糸からつくんなくちゃいけないなぁ」
「え、バカじゃないの? いまさらそんなのつくって、なんの意味があるの? 世の中に合繊なんて溢れてるし、縫糸なんてほとんどが合繊じゃん」
それが大半の人たちの意見だと思うんだけど。でも、僕らが信じているのは、そういう商品をつくることによって、もう少し洋服のつくり方や意識が変わったり、環境に負荷をかけないものづくりができたりとか、そういう変化のきっかけになるんじゃないかと思って、そこをやるんであって。「メーカーとして何をすればいいのか?」、「どういう研究をして新しいものを生み出さなければいけないのか?」っていうクリエイティブな要素が明確になってきたかなと思ってる。
生産地なんて、典型的だよね。日本製にする意味、中国製にする意味なんていうのは、いまや日本生産のほうがトータルでみたら劣っているかも知れない。中国もだいぶ値段は上がってきたりしていても、まだ日本よりも安い。で、技術的には上がってきている。じゃあユーザー目線で考えたら、どっちが得なの? っていったら、中国でつくったほうが得でしょう? って。じゃあ、製作をぜんぶ中国に持っていっちゃったら、日本のアパレル産業にどういうことが起こるかっていったら、洋服をつくれる工場が日本になくなっちゃうってことで、全部輸入に頼らなくちゃいけなくなる。それはどういうことか? 何かの問題で輸入がストップされたら、僕らは生きていけなくなる、っていうこと。野菜とかと一緒で。
「洋服? 安い海外でつくればいいじゃん」て言うけれど、ホントにそのままで良いのかな?キレイゴトを言っていかないと、どうしようもなくなるんじゃないかなって。そんな気がしている。キレイゴトが言えない社会って、おもしろいとも何ともないじゃないかって思たりもするよ。
―掲げた目標はどうしたら達成していけそう?
生分解性100%の商品を目指すなら、普通に考えたら、合繊で強度を出しているソックスさえもつくれないわけだけど、そこを軸に新しいクリエイティブなことが生まれてくるんじゃないかなって思ってる。強度を強めるためのナイロンを入れる代わりに、天然繊維のなかでいちばん強いヘンプを爪先とかかとに使って、それ以外のパートをウールでつくったらどうなるんだろ? とか。
縫い糸もコットン100%しばりで考えたときに、もっとも強い糸ってなんなの? とか考えたら、超長綿を使って撚り係数を増やして……とか。
じゃあ、ヘンプは? ヘンプやリネンは繊維に節があるから、縫い糸としては使いづらい。しかも、硬いのよ。でも、強度的には強いという意味だから、アイデアとして「節がないヘンプの糸をどうやってつくればいい?」っていう、どんどんクリエイティブな発想に変わってく。例えば、ヘンプを芯にして、カバーヤーンって言って、ヘンプの芯をカバーするようにコットンを巻いたら、新しい強い糸ができるかも知れない、とか。
多分そういうことなんだよね、tennen/テンネンの仕事って。昔にはなかったいまの技術で世の中にないものをつくっていく。そうすることで、ユーザーのみなさんの選択の幅が広がって、より自由な世界が広がるんじゃないかなって。
それを開発するためには時間もお金もかかるけど、何よりコンセプトに立ち返ったり、諦めないでチャレンジしていくことが大事だって思ってるよ。
今年の秋冬から、tennen/テンネンの目指した本来の姿がちゃんと見せれると思ってる。期待してみててください。