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やさしい人に還る服

オーガニックコットンの糸を紡いで

やさしい人に還る服――ウィークデイの少し張り詰めた気持ちが和らぐオフの日に、家族と一緒に過ごす時間のような“やさしい自分”を取り戻すウェアをつくろう。これがテンネンのデザインコンセプト。そんなリラックスした空気を表現するのに欠かせないのが、オーガニックコットンの風合いと、それで紡がれた糸の存在です。
今回は、オーガニックコットンの存在が一般的に知られる以前から、その良さにいち早く着目してものづくりに落とし込み、現在は多くのメゾンやブランドからの信頼も篤い、大阪の大正紡績さんをご紹介します。

コットンは身近な優良素材

テンネン(以下、Te)
大正紡績さんは、ずっと紡績にたずさわられてきているのですか?

大正紡績(以下、Ta)
そうですね。社名の通り、大正時代からで。今年でちょうど100周年なんです。

Te
へえ! おめでとうございます!
基本は、天然繊維の紡績なんですよね?

Ta
そうですね。基本はコットンの紡績です。
うちの特徴っていうのは、ひとつは、オーガニックコットンに早くから取り組んでいるということ。もうひとつは、オーガニックコットン含め、世界中のあらゆる国や地域に原料の綿を買い付けに行って、農家さんと直接契約をして輸入をし、ものづくりをしていることです。
あとはコットン以外にも、ウールやシルク、麻、カシミアなどという天然異素材も、コットンとブレンドしたりします。

Te
コットン畑もされているんですか?

Ta
立ち上げのときに、地元、大阪府阪南市の商工会議所のコットン畑をお手伝いしていたんですけど、いまは市が独自でされてますね。で、そこでできたワタをうちの工場で糸にして、形にしています。
ちなみにコットンは、だいたい4~5月にタネを蒔いて、11月くらいにワタを収穫します。

Te
昔、それこそ大正時代とかって、コットンは輸入されてたんですか?

Ta
いいえ。昔はその辺でも育てられていましたよ。この辺りなら岸和田。和綿ってありますよね、あれです。ただ、和綿って繊維長がとても短いので、糸にするっていうよりも布団のワタとかね、そういう資材の方で使われていたようです。

Te
では、当時は日本製のワタでいろいろやっていたと?

Ta
そうそう、普通に。育てるのは普通の農作物に比べると比較的簡単なんです。

Te
テンネンでもコットン畑をやろうという企画があって。こないだ畑を借りて、草刈りをして。

Ta
インスタで見ましたよ!

Te
いまだと日本の綿っていろんなところで栽培されているんですね。
東北でも震災の後に……。

Ta
そうそう。実は綿花って塩分に強いので、津波で潮に浸かってしまった田の塩分を除去して1年後、2年後に普通の田んぼに戻そうという発想です。

Te
塩分を吸うわけなんですね?

Ta
そうなんです。

Te
なるほど。現在は国内だと東北コットンが生産量もいちばんなんですね。

Ta
そうそう。参画企業なんかも多く、大規模にやってるので。
潮に浸かったところもそうですし、遊休地なんかも活用しています。

オーガニックコットンは人を幸せにする!

Te
大正紡績さんでは、オーガニックコットンってどれくらいの時期から扱われているんですか?

Ta
22~23年前ですね。
元々はアメリカの昆虫学者、サリー・フォックスさんが「オーガニックコットンが子供たちや人々を幸せにする」というのを研究されていて、ニューヨーク・タイムズにそういう記事を載せられて。それをうちの社員が見て、話を聞きにうかがって「これはいいことだから日本でもやろう!」ということでスタートしたんです。
ちなみに、その社員が話を聞いたのが1987年あたり。当時、親会社にオーガニックコットンの話をすると、上層部は「なんだ、そのオーガニックコットンって?」って。当然、その当時はだれも知らないですよね。ワタも高いし、「そんなんで採算が取れるのか?」って話で。そんなところからのスタートでした。

Te
いまじゃ、当たり前になってきてますもんね。

Ta
そうそう、先見の明。

Te
30年越しですもんね。

Ta
いまは世界的にみても、このあいだ行った海外の展示会でもそうだったんですが、トレーサビリティとか、サステナビリティとかが、ひとつの当たり前な標準規格になってるなあ、というのを感じるんです。
その反面、日本国内ですと、それが一種のトレンドと捉えられていて、最近問い合わせも多いですね。オーガニックコットンのことをもうちょっと詳しく知りたいとか、教えて欲しいとか。……と言いつつ、最初の導入はいいんですが、最終的に値段が高いとかで、スポットで終わってしまったり。それか、安くて、本当はオーガニックかわからないようなものを海外から仕入れてきて、エンドユーザーに一応オーガニックコットンですよ、って出してたり……。という風なことで、なかなか本物のオーガニックというのが浸透しにくい。残念な話なんですけど。
ただやっぱり、長くお付き合いさせてもらっているオーガニックコットンを扱っていらっしゃるアパレルさんが数社あるんですが、堅調というか、安定的に伸びていますね。真面目に取り組んでいらっしゃるブランドさんは。

Te
製品に対するきちっとした説明がエンドユーザーのみなさんに伝わらないと、モノもなかなか売れない時代になってきました。

Ta
そうですね。それは企業さん側も気づいているので、いままでも、今回みたいに「撮影させてくれ、勉強させてくれ」っていうのは多かったんですけど、最近はもっと増えてますね。
ある提携をさせてもらっているブランドさんは、販売員の担当者が全国に60名くらいいるのかな、彼らみなさんがうちに勉強に来られて。工場見られて、ワタも触っていただいて、エンドユーザーのみなさんにその生の声を伝えていただければって思っています。

Te
みんな、そういうのやってるんですね。テンネンの社員も、こういったところに見学に来たりした方がいいんじゃないかって、いまちょうど話をしているところなんです。

Ta
そう思いますね。
で、逆に僕らもこういうことを伝えることで、他社と差別化していける。

Te
いずれ、エンドユーザーのみなさんを集めて工場見学とかっていう企画をなんとなく考えているんですけど。工場見学ツアー、大人の社会科見学みたいな感じで。

Ta
それは絶対アリやと思います。これからますます大事になるんじゃないですかね。
やっぱり、デザイナーさんなんかもオーガニックコットン農家とか現場を見ると感動されるというか、人生観が変わるくらいの影響を受けられてるみたいで。帰国されてからは、やっぱりうちの原料は高いんですけど、「なにも言わないから、どんどんやってください!」と。

Te
素晴らしい変化ですね笑。

Ta
僕らにとっては嬉しいことなんですが、最終的にエンドユーザーのみなさんに解ってもらえないとですよね。そうしないとダメなんで、そこのサポートを僕らもしないとなんです。

Te
それこそ、エンドユーザーのみなさんの人生観が変わるような体験を。

人にも地球にもやさしいものづくりって?

Ta
テンネンさんは、生分解性やリサイクルを視野に入れたものづくりというのがコンセプトですよね? 大手さんにも少しずつそういうところも出てきましたね。例えば、裁断クズとかいろんなものを反毛(=繊維のワタ)に戻して、それをまた服にするっていうのはプロジェクトでスタートしてるんじゃないかな。

Te
みんなそっちの方に少しずつ動いてきてる感じがしますね。

Ta
そうですね。海外のお客さんにそういう活動が多くなってきていると思いますね。
ヨーロッパ系の企業はやっぱり意識が高いですよ。じゃないと逆に見向きもされなくなってしまうっていう。特に大きな企業だと。そういうのをかなりシビアに考えていると思いますよ。フェアトレード然り、ミュールシング(=羊への蛆虫の寄生を防ぐため、子羊の臀部の皮膚と肉を切除する行為)然り。

Te
オーストラリア産のウールはノンミュールじゃないんですよね。

Ta
基本そうですね。
そして、ニュージランド産のウールは基本ノンミュールなんですけど、100%じゃないんですね、実は。もう業界的にニュージランドのものだったらノンミュール、っていうイメージが根付いているんですが。
さらに、もうニュージランド産のいいウールのワタが手に入らなくなってしまっています。だから、オーストラリアの方はいままでノンミュールじゃなかったんですが、ノンミュールにすると高く取引されるんで、牧場主さんがノンミュールにしようかっていう変化がありますね。
ただ、エンドユーザーの方々はそこまで知ってる人は非常に少ないですよね。

Te
食べ物はだいぶそうなってきましたけどね、着るものはね。

Ta
食べるものはカラダにいいとか、なんとなく感じられるけど、ただ服の方はカラダにいいっていうのが実感としてあんまり感じられないっていう。

Te
実際、やっぱりあるんですか、オーガニックコットンがカラダにいいとかいうことは?

Ta
アトピーが治ったとか、そういう人はいらっしゃったりしますよね。
あとは、やっぱり長く着れると思いますね、僕らも実際。洗濯してても風合いが変わらなかったり、長くいい状態で着られるっていうイメージはあります。肌に近いところでは本当にいいと思います。

Te
オーガニックコットンを育てるのは結構大変なんですか?

Ta
極端な話、ほっといたら育つんですけど、ある程度まとまった量を育てようとすると、雑草を抜いたり虫がついたりするのを駆除したりといろいろ管理があるんで、結構人の手がかかるんですね。だから、なかなか先進国では量産ができない。
よく言われる児童労働なんかは、いちばん酷いのはベトナム戦争でも使われていた枯葉剤、それを撒いて葉っぱを枯らして収穫しやすくする。で、結局そこで働いてた子供たちがその影響を受けて健康被害を受ける、っていうのがオーガニックじゃないコットンの、過去に後進国で行なわれていた育て方だったんです……。いまはだいぶ少なくなったと聞いていますが。

Te
そうなんですね……。

Ta
実際、そうやって育てられた普通のワタって、まだ過去50年くらいのあいだでしかつくられてないんで、それが人体にどう影響してくるかっていうのは、まだわからないですね。多分100年後、200年後になると、実際なんかおかしなことが起こって、遡ってみると実は着ていたモノからの影響かもしれない、っていうのはあり得るでしょうけれども。短いピリオドではわからないでしょうね。

Te
でも、農場で働いてる人に害があるっていうのだけでも、ちょっと問題ありですよね。 絶対に生産はしなくちゃいけないですからね、コットンは。

Ta
事実を伝えていかないとですね。

日本のものづくりの楽しさを伝えたい

Ta
これからの繊維業界の課題は、やっぱり後継者をどうやって育てていくかっていうところですね。本当に人材がいないので。

Te
それは本当にいろんなところで聞きますね。

Ta
いま残っている小さな繊維関係の工場なんかは、代替えされているところが多いですね。前向きにやって行こうというところがそうなんですが、そうじゃないところは現在の代で辞めちゃうところも多いんじゃないでしょうか。
ただ、そこに必要な下請けの工場さんに全然後継者がいないんです。

Te
仮にそれがなくなっちゃうと、海外の安いところに出すしかなくなっちゃうということですか?

Ta
海外でしか服がつくれなくなると、細かいことができなくなったりとか、時間もかかるし、日本のものづくりに多くの弊害が出てきます。

Te
縫製工場も働いている方は海外の方が多かったりしますよね。

Ta
若い人に興味を持ってもらえる職種にしないとですね。
基本、ものづくりなんで楽しいと思うんです。僕らもそうでしたけど、この業界に入る前は服ってどっちかというとアパレルさんの華やかな部分のイメージがありました。ものづくりの泥臭い現場っていうのをあんまり知らないというか。けど、実際入ってみると以外と面白いなっていうのは感じるんです。
そういうのをどうやってちゃんと伝えるか。というか、理解してもらえるようにするのか。

Te
表舞台もいいけど、縁の下の力持ちもいいかも、っていう。

Ta
ものづくりって楽しいよ!って。自分でつくったものが、あの場所でこんな風に販売されてて、こんな人が着てるよ!みたいな。
それを伝えるのはうちの課題でもありますからね。頑張りたいです。

Te
今回はありがとうございました!

コットンから糸ができるまで

1
こちらが原綿倉庫。畑で収穫されたコットンボールのタネと繊維を分離したものをプレスして、500ポンドひと塊として輸入される。一般的なコットンからオーガニック、自然由来の有色コットン、獣毛まである。

2
工場内に運び込まれた原綿。静電気防止のため、倉庫で約3%だったコットンの湿度を、ここで8%にまで上げていく。

3
混打綿。色モノや黒モノ、異素材との組み合わせはこの段階でブレンドし、最初のシートをつくる。白いコットンはビーティングを行ない、ゴミを取り除いて、梳綿(りゅうめん)機へエアーで飛ばす。

4
梳綿。コットン繊維をくしですき、綿菓子のような状態にしたものを引き揃え、スライバーにまとめる。

5
練条。6~8本のスライバーを重ね合わせながら引き伸ばし、均質で密度のあるスライバーをつくる。その際、白糸は2回、色モノなどは3回ほどそれを繰り返す。

6
粗紡。糸になる直前の工程。スライバーを元の10枚程度までさらに引き伸ばし、撚りをかけて粗糸をつくる。

7
精紡。粗糸をさらに引き伸ばして撚りをかけ、糸にする。

8
捲糸。精紡機でできあがった糸を出荷用のチーズに捲き上げるのと同時に、糸の欠点などをセンサーで感知し取り除いていく。