MAGAZINE

土に還る服

1,200年の時を超える、草木染め

私たちテンネンが目指すのは、生分解性100%の服。イコール、自然環境を汚すことなく、100%土に還ってくれる服です。でも、そうするには色を付ける染料も天然由来のものでなくてはいけません。
このテンネンのこだわりに、一緒になって取り組んでくださっているのが、京都の村田染工さん。不安定な草木染めにさまざまな工夫をこらして、何度袖を通しても変わらない色みを実現した、匠の技光る染物屋さんです。
京都では「染め屋と豆腐屋は水が命」と言われてきたそうで、かの千利休も茶湯で使った「柳の水」が湧く井戸からほど近い場所で、その水を用いて唯一無二の色を育んでいらっしゃいます。
今回は、その村田さんの工場に潜入です!

1,200年の時を経て
いまだ色鮮やかな、日本の草木染め

テンネン(以下、T)
ウェブサイトを拝見して、創業からもうすぐで70年近く経つと思うのですが、いつ頃から草木染めに取り組んでいらっしゃるのですか?

村田染工 村田社長(以下、M)
2003年頃からですかね。
年に一回、正倉院展っていう国宝級の展示物を見せる展覧会があるんですね。そのなかで「緋絁襪(ひのあしぎぬのしとうず)」という真っ赤に染まった靴下があって。これは、宮中で踊るときに履いていた靴下なんですよ。そして、なんとこれが1,200年前に染められたアカで、まだその色がはっきりと残っているんです! 「これ、すごいなー!」っていうのがきっかけですね。
たまたま取引先の部長さんがこれを見て情報をくれはって。で、早速本を買って見てみると、これは草木染めやな、と。
私ら、京都の染め専門の工業高校を出ておりまして、3年間勉強したあと、市の染色試験場に1年間勉強に行ってまして。そのときの場長さんに相談したんですよ。「実は先生、こういう草木染めがやりたいんだけれども、どうしたらええやろう?」と。もともと草木染めっていうのは、だいたい趣味か工芸品扱いなんで、「堅牢度がどう」とか、「きれいに染まる」とか、いろんな条件が未開発や、と。だから、もしこれからやるのであれば工業量産化、つまり、堅牢度を出すとか、何回着ても同じ色のままキープできるように、草木染めをデータ化したらどうですか? というご提案をいただきまして。京都市の染色試験場と、草木染めの染料をつくってくれている滋賀の協力会社さん、そして弊社、3社で共同開発のプロジェクトチームを立ち上げたんです。
で、綿、麻、シルク、ウール、その4素材をベースにさまざまな色みを全部草木染めで染めまして、京都市の染色試験場にお渡ししたら、数値データを全部取ってくれまして。この記録がわれわれのいちばんの宝です。 ほかの会社さんも大小かかわらず草木染めはやっていらっしゃいますけど、ここまでのデータをつくっているところはどこにもないでしょうね。いちばん自信を持ってるところです。

T
つまり、おんなじ色を確実に再現できるってことですよね?

M
そうです。ただ、これはあくまで基本的なデータであって、現在は何千いうくらいの色数を持ってますねん。
草木染めの場合は「媒染」って言いましてね、元々の色で染まったやつを、例えば鉄を含む液に入れると瞬時に色めが変わるんです、ポーンと。

T
へえ!

M
化学染料では一切変わりませんから。それをうまく利用していろんな色を出す。そういうのを一年半かけて探っていき、データ化していきました。
いま現在は、製品染め、生地染め、ワタ染めですかね。そして糸染めは、設備投資や長いあいだ研究を重ねて、なんとかできるようになりました。
ちなみに、テンネンさんのは製品染めですね。Tシャツとかいうもんなら簡単なんですけど、ジャケットやパンツになってくると、製品が送られてきてもすぐには染められないんですよ。そのまま染めれば折れたりとかいろんな問題が出てきます。こういった重衣料に関しては必ず仮止めをしなあかんとです。これまでの失敗の経験でね。そうすることでキレイに染まるっていうのが痛いほどわかってますんで。
いま現在は用品・雑貨・小物も増えてきましたね。例えば、帆布のバック。女性用のアンダーショーツとか生理用品とかもですね。

T
色を定着させるのは何か特別なことをするんですか?

M
草木で染めるにあたっては、なんぼ染料を放り込んでも薄い色しか染まりませんね。糸の性質を変えて良く染まりやすいように。また堅牢度をきっちり満たすような前処理が必要です。弊社の場合は改質加工をやっていくんですね。そうすることで濃色まで染められ、かつ繊維への定着性が安定するという。

T
染料をどうにかするんじゃなくて、染める生地とか布地の性質を変えるということなんですね。

M
そうです。それがいちばんのポイントですね。

T
それも化学なんですよね?

M
そうです。その辺は3社での共同研究の結果、このやり方しかないやろな、と。 最近では、「草木の糸染めでキレイなムラをつくってくれ」と。得意先はまあ好きなこと言って来ますわ笑。

T
恐縮です笑!

日本のアオとアカ

M
あとは藍染めですね。琉球藍をやっています。

T
キレイなアオですね!

M
琉球藍というだけあって、沖縄のものでないとダメなんです。その泥藍をつくってるのは人間国宝級の伊野波さんっていうおじいちゃんですわ。
徳島の藍と琉球藍の違いは、徳島の方がもう少しアカいんですよ。沖縄のはアオみのある藍ですから、徳島のと差別化できて結構喜ばれるんですよね。それぞれ植物が違うんです。琉球藍の方はキツネノマゴ科に属していて、当然色素も違うと。 ちなみに藍は、染まってるじゃなしに糸の表面に付着してるだけなんですよ。デニムとか加工をするとそこだけ色がとれますよね? それは染まってないから。これ、化学染料とか草木染めみたいに染まっていると、一切色が削れないんですよ。

T
草木の「染まってる」っていうのと、藍の違いって、どういうことなんですか?

M
藍の場合は空気に触れさすとグリーンがブルーになります。それで、1回目の染料が糸の上に乗るんです。で、また浸けて上げる、で2回目。という風に2層、3層、4層……この繰り返しなんですよ。

T
それがどんどん使ってるうちに剥がれていって、アオが淡くなっていくって感じですね?

M
そうです。藍の場合、堅牢度、特に摩擦に弱いっていうのは、それが理由ですね。だから経年変化、年数によって変化していくその色を楽しんでもらうのが藍染めの魅力ですね。

T
草木染めの歴史自体は1,200年以上前からあるんですか?

M
ありますね。どっかの洞窟の壁に見返り美人の絵が描いてあったと。そのなかにアカい衣装の描画があって、それがラックダイの染料だったというのは知られていますね。

T
ラックダイってどんな染料なんですか?

M
虫ですね。草木染めのなかで唯一虫由来なんです。ラックっていうその虫が体内に持ってる体液がアカなんですよ。皆さんびっくりされると思うんですけど、チョコレートのコーティング剤にも使われているんですよ。

T
それってサボテンにくっつくっていうやつですか?

M
あ、それはコチニールです。でも、まったく構造は一緒なんですよ。

T
草木染めの文化って世界中にあるもんなんですか?

M
元は中国で、漢方染めとも言われています。漢方に使うような植物でも多く染めてるんですね、丁子とか。お線香に使う原料ですね。

T
スパイスですね。ガラムとかに入ってる。

M
色素だけ抽出しますから、染料に匂いとか効能はないんですけど。

肌に優しく、目に優しい服

M
私たちがもうひとつ気を使っているのが、最終的な段階での生地の風合いですか。これをいちばん重要視してるんですよ。特に女性の敏感肌とか首筋とかに当たる部分を柔らかくするようにシルクプロテイン加工という特殊な柔軟加工をやってるんです。これは絹から抽出したプロテインを柔軟加工剤として使うというものです。

T
シルクのエキスってことですか?

M
そうです。特にストールとか、首筋あたりには全然違うんですよ。

T
ホントだ。ざらっと感がないですね。

M
シルクはもともと保湿効果がありますから。色も若干黄色めに振れますね。シルクが付いている証拠です。あとアレルギーの方が着ても炎症反応が起きないという効果もあります。これもマッチングテストを全部してますので確かです。風合いがどれくらいもつか、というのは、洗濯で30回まで洗っても風合いが変わらないという化学的な試験結果もでましたね。ただ、素材独自の風合いを活かしたいというお客様もいるので、闇雲にではなく、ご希望いただければという感じでやっていますね。シャツ地なんかでしたら、もうフワ~っと上がりますね。

T
最初は正倉院の展示がきっかけだったと思うんですけど、いま村田さんのいちばん得意なところは、やっぱり草木染めなんですかね。

M
いまは圧倒的に草木染めが多いですね。
今の村田の設備と技術でここまでだったらできます、と。そっからは、お客さんの考えと私らの考えでどこまでできるか。まずは挑戦しましょうと。っていうやり方でやってますね。「できない」と言うと、それで切れてしまいますからね。

T
ひとつひとつのチャレンジの賜物なんですね。 最後に、草木染めの魅力ってなんですか?

M
いちばん質問されるのは、草木染めと化学染料とどう違うんですか?っていうのなんですけど、その答えは、まず変わりません、と。いちばんの違いは、色の変化ですか。それを楽しんでいただけたら。
あとは目に優しいですね。パツンと来ないですよね。化学染料と違う目に入ってくる色の優しさ。これは絶対ありますね。
それと、食べ物シリーズとか、そこらあたりにもチャレンジしていきたいかな。遊び半分、なかなか商売ベースにするにはムズカシイけど、今後もしっかりやっていきたいね、食べ物から抽出したものを。やっぱり要望がありますよ。

T
野菜クズとかですよね?

M
残り染めって言うんですよ。
中央市場で残った野菜、廃棄処分してしまいますよね? それをいただいて染料をつくるとかね。そういうのをちょっとでも活かすという。

T
いいですね。破棄されるようなものを使って染めるって。

M
でもね、消費者が興味を示すような色味でないとダメですね、ただの思いつきでは……。
草花、なんでも染まります。が、色は付くけどもしっかり堅牢度をチェックしないと製品としていけないんです。耐光、摩擦、汗、洗濯……そのデータをピシーッと整えて、そこで使えるものしか使ってないです。草花によっては、染めた一時間後に色がまったく消えてしまうものもありますから。

T
最初はまっさらな布が、全部キレイに染まっていく。とても美しいなぁと思いました。 今日はどうもありがとうございました!